特別養護老人ホーム(略して「特養(とくよう)」。費用を抑えやすい代わりに、入居まで待機がある公的な施設です)を考え始めたとき、いちばん気になるのが「毎月いくらかかるのか」だと思います。
結論から言うと、特養の月額には所得に応じて費用が下がる公的な仕組みがあります。この記事では、費用の内訳と、その仕組み(負担限度額認定)を、厚生労働省の金額をもとにやさしく整理します。
特養の費用は「4つ」の合計でできています
特養の月額は、大きく次の4つの合計です。
- 介護サービス費(自己負担分) … 介護そのものの費用。原則1割(所得が高い方は2割・3割)の自己負担です。要介護度が重いほど高くなります。
- 居住費 … 部屋代にあたる費用。相部屋か個室かで大きく変わります。
- 多床室(たしょうしつ)=相部屋。いちばん安い。
- 従来型個室=個室だが食堂などは共用。
- ユニット型個室=全室個室で少人数グループごとに共用スペース。いちばん高い。
- 食費 … 1日3食分の費用。
- 日常生活費 … 日用品・理美容代など、介護保険の対象外の個人的な費用。施設ごとに設定されます。
このうち、居住費と食費が、次に説明する制度で大きく下がる可能性があります。
まずは軽減なしの目安(厚労省のモデルケース)
厚生労働省が示している目安(要介護5の方の1か月・30日換算)は、次のとおりです。金額はあくまで国が示すモデルで、実際は施設や加算によって前後します。
相部屋(多床室)を利用した場合
| 項目 | 金額の目安(月) |
|---|---|
| 介護サービス費(1割) | 約26,130円 |
| 居住費(915円/日) | 約27,450円 |
| 食費(1,445円/日) | 約43,350円 |
| 日常生活費 | 約10,000円(施設により設定) |
| 合計 | 約106,930円 |
ユニット型個室を利用した場合
| 項目 | 金額の目安(月) |
|---|---|
| 介護サービス費(1割) | 約28,650円 |
| 居住費(2,066円/日) | 約61,980円 |
| 食費(1,445円/日) | 約43,350円 |
| 日常生活費 | 約10,000円(施設により設定) |
| 合計 | 約143,980円 |
(出典:厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」)
同じ特養でも、部屋のタイプで月3〜4万円ほど差が出ます。そして、次の制度に当てはまると、この居住費と食費がさらに下がります。
費用を大きく下げる「負担限度額認定」とは
所得や預貯金が一定以下の方は、「介護保険負担限度額認定」(正式には特定入所者介護サービス費、通称「補足給付(ほそくきゅうふ)」)を受けることで、**居住費と食費に上限(負担限度額)**が設けられ、上限を超えた分は介護保険が負担してくれます。
つまり、満額なら食費1日1,445円のところ、対象になれば1日390円などに下がる、という仕組みです(金額は所得段階によります。詳しくは後述)。
大切な点が2つあります。
- この制度は自分で申請しないと適用されません。知らないまま、毎月数万円多く払い続けているケースもあります。
- 下がるのは居住費と食費のみです。介護サービス費そのものは対象外です(介護サービス費は別に「高額介護サービス費」という上限の仕組みがあります)。
対象になるのは「特養・老健など」。有料ホームやグループホームは対象外
この負担限度額認定が使えるのは、特養・介護老人保健施設(老健)・介護医療院など、公的な介護保険施設です。介護付き有料老人ホーム・住宅型有料老人ホーム・グループホーム・サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、この軽減の対象外です(出典:複数の市区町村案内・厚労省)。この違いは施設選びで見落としやすいので、費用面から比べるときの前提として押さえておくと安心です。
うちの親はどの段階?──所得と預貯金の要件
負担限度額認定は、所得の要件と預貯金の要件の両方を満たす必要があります。前提として、原則「本人を含む世帯全員が市町村民税非課税」であること、また別世帯の配偶者がいる場合はその配偶者も非課税であることが必要です。
そのうえで、次の段階に分かれます(令和6年8月〜。カッコ内は夫婦の場合の預貯金上限)。
| 段階 | おもな対象 | 預貯金の上限 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 生活保護を受給中の方など/世帯全員が非課税の老齢福祉年金受給者 | (生活保護は要件なし)1,000万円(2,000万円) |
| 第2段階 | 世帯全員が非課税で、本人の公的年金収入+その他の合計所得が年80.9万円以下 | 650万円(1,650万円) |
| 第3段階① | 同上で、年80.9万円超〜120万円以下 | 550万円(1,550万円) |
| 第3段階② | 同上で、年120万円超 | 500万円(1,500万円) |
| 第4段階 | 市区町村民税が課税されている世帯 | (対象外) |
(出典:厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」)
※ここでいう「合計所得金額」は、年金や給与などの所得を合計したものです(正確な判定は自治体が行います)。非課税年金(遺族年金・障害年金など)も判定に含まれます。第4段階の方は原則この軽減の対象外ですが、ご夫婦のうち一方が入所して在宅の配偶者の生活が苦しくなる場合などに、例外的な軽減(特例減額措置)が受けられることがあります。
段階ごとに食費・居住費はいくらになる?(厚労省の公定額)
特養に入所した場合の、食費・居住費の上限(負担限度額・1日あたり)です。第4段階の方は軽減がなく、施設との契約による金額になります。
| 区分 | 基準費用額(満額) | 第1段階 | 第2段階 | 第3段階① | 第3段階② |
|---|---|---|---|---|---|
| 食費 | 1,445円 | 300円 | 390円 | 650円 | 1,360円 |
| 居住費:ユニット型個室 | 2,066円 | 880円 | 880円 | 1,370円 | 1,370円 |
| 居住費:ユニット型個室的多床室 | 1,728円 | 550円 | 550円 | 1,370円 | 1,370円 |
| 居住費:従来型個室 | 1,231円 | 380円 | 480円 | 880円 | 880円 |
| 居住費:多床室(相部屋) | 915円 | 0円 | 430円 | 430円 | 430円 |
(単位:1日あたり。出典:厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」)
たとえば第2段階で相部屋の方なら、食費は満額1,445円→390円、居住費は満額915円→430円。2つ合わせて1日約1,540円の軽減で、30日換算だと月およそ4.6万円負担が軽くなる計算です。所得が低い方ほど、下がり幅は大きくなります。
申請先と手順──窓口は「お住まいの市区町村」
申請先は、親御さんがお住まいの市区町村の介護保険担当窓口です(すでに施設に入所している場合は、施設が代理で申請してくれることも多くあります)。
- 申請すると、要件に当てはまる方には「介護保険負担限度額認定証」が交付されます。これを施設に提示すると軽減が適用されます。
- おもな必要書類は、介護保険被保険者証、本人と配偶者のすべての預貯金通帳の写し(直近の記帳が必要)などです。
- 毎年8月に更新が必要です(有効期限は原則7月末まで)。
正確な必要書類や様式は自治体によって異なります。手続きの詳細は、市区町村の窓口か、身近な相談先である地域包括支援センター(高齢者の暮らしの総合相談窓口)に確認すると確実です。
「うちの親はいくら?」を確かめる4ステップ
- 親の住民税を確認する … 世帯全員が非課税かどうかが最初の分かれ目です(課税されていると第4段階=原則対象外)。
- 年金収入+その他所得の合計を確認する … 上の段階表のどこに入るかの目安になります。
- 本人と配偶者の預貯金の合計を確認する … 段階ごとの上限を超えていないか確認します。
- 市区町村の窓口/地域包括支援センターに相談する … 最終的な段階の判定は自治体が行います。見込みが立ったら申請へ。
まずは1と3だけでも確認しておくと、「軽減が使えそうか」の見当がつきます。
この金額は改定されます(令和6年8月・令和8年8月)
介護保険の金額は定期的に見直されます。直近では、令和6年8月に居住費の基準費用額と負担限度額が引き上げられました(相部屋で0円だった第1段階の方は据え置き)。
さらに令和8年(2026年)8月から、第3段階②の一部で居住費の負担限度額が引き上げられるなど、区分の見直しが予定されています。最新の金額は、必ず厚生労働省の案内またはお住まいの市区町村でご確認ください。この記事の金額は執筆時点(令和6年8月〜の公定額)のものです。
まとめ
- 特養の月額は「介護サービス費+居住費+食費+日常生活費」の合計です。
- 所得・預貯金が一定以下なら、負担限度額認定で居住費・食費が下がります。ただし申請が必要です。
- 有料老人ホーム・グループホーム・サ高住は、この軽減の対象外です。
- 「うちの親はいくらか」は、住民税・所得・預貯金を確認し、市区町村の窓口や地域包括支援センターに相談するのが確実です。
親の介護は、目の前の費用だけでなく、その後の相続やお金の備えとセットで考えると見通しが立てやすくなります。
出典
- 厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」(施設利用料の内訳・所得段階の要件・食費/居住費の基準費用額および負担限度額) https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html
- 厚生労働省 老健局「補足給付(低所得者の食費・居住費の負担軽減)の仕組み」介護保険最新情報 Vol.1280(令和6年6月/令和6年8月改定リーフレット・居住費60円/日の引き上げ) https://www.mhlw.go.jp/content/001266890.pdf
- 厚生労働省 社会保障審議会 介護給付費分科会 資料(基準費用額の考え方・居住費の見直し) https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001603554.pdf